母校の埼玉大学へ。
教育学部美術科の吉岡正人教授の退官最終講義を受講して参りました。教育学部棟での久しぶりの学びや、6年間住んでた第2の故郷さいたま市下大久保は新しく変わったところとずっと変わらない風景がそこにあり、タイムスリップした錯覚に陥りました。
ぼくは吉岡先生の研究室ではありませんでしたが、お話を聞きたいと思い受講いたしました。
吉岡先生の講義は相変わらず楽しい講義でした。しかし内容は実はとても深く重くそれでいて素っ裸なものでした。
文字で説明するとうまく伝わらないのを承知で書きます。
「あなたはなぜ絵を描いているんですか?」と言われたら吉岡先生は「わたしは人間だから」と答えるそうです。ラスコーの壁画から今まで人間はもともと絵を描く生き物なんです。だから私は絵を描きますと。
それから歴代の絵の説明やアルバイト生活などのお話。
画家という世界に一握りの職業に就きたいと願う。けども現実は絵が売れない、派閥がある、絵がそこそこ売れても全然生活できない。結構売れても家族は養えない。海外で個展を開くために絵を送るとなると1300万の輸送費の見積もりになったことがある。など美術界の色々をさらけ出すお話がたくさんありました。そんなこんなで大学にお勤めになられたと。
吉岡先生は20代はヨーロッパ留学時、海外の画家の作品を生で見て世界のレベルの高さにノックアウトされましたそうです。日本人がどうあがいても勝ち目はまず無いと。まあ必死になってました。必死にテクニックを磨いて、自分の絵のスタイルを確立させて、周りの画家が描かないような奇抜な絵で目立とうと、必死だったそうですがそれは終着点では全くないことに、ロココ時代の伝説の画家ヴァトーの「ジル」という絵を目の前で見て気づいたそうです。
「良いものは良い」。劣等感というものはどんな優れた有名な画家でもあること、おれもだよ、と。ジルが語りかけてきたそうです。
アントワーヌ・ヴァトー
ピエロ(ジル) (Pierrot (Gilles)) 1717-1718年頃 184.5×149.5cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)
120分の講演の最後の最後で、65歳になられた今でももがき続けていて、明日はもっといい絵が描けるんだと涙ながらに語っておられて、胸が熱くなりぼくは先生から勝手に勇気をいただきました。自分のスタイルはいらない。良いものは良い。頑張ることが一番大事なことであると。
全ての講義を聞き終えたときに吉岡先生がウラニーノの恩師、佐久間正英さんと重なりました。
吉岡先生、これからはご自身の時間が持てますね。たくさんの素晴らしい作品を作ってください。これからの吉岡先生の作品が俄然楽しみになりました。そして、吉岡先生はぼくの目標です。どうもありがとうございました。教授生活、お疲れ様でした。