やまぎ日報381「おっさん4人でお見舞いに行った話」

4月29日

「混んでいるとわかっていてなんで遠出するんだろう」と、毎年連休に行楽地に行く人々を冷ややかに見ていた私であるが、この日はしっかりと東北道の渋滞に巻き込まれた。世のお父さんは大変だなと思った。

 

4月30日

夜勤。映画「仁義なき戦い」をダウンロードしてきて病院の受付で鑑賞。絶対こういう人たち運ばれてきてほしくない。

 

5月1日

小倉家へ。大雨の中、新曲のMV撮影。とはいえ、私は出演しないため出番はない。


ヒマなので人んちの庭で火遊びをする。


撮影・監督のしあわせが火に当たりにきた。老後感が漂う。

出来上がりが楽しみであるが、しあわせは社畜。倒れない範囲で進めてくれればと思う。

 

5月2日

コインランドリー回しながら小説を読むいつもの朝活。カメラ屋さんにフィルムの現像を頼みに行く。何もわかってないもので、フィルムを渡して「私はどうしたらいいのでしょうか?」と心療内科の患者のように店員さんに聞く。色とかサイズとかデータの渡し方法とか細かく聞かれたがよくわからない。結局「おすすめで」と寿司屋みたいなことを言って店員さんを困らせてしまった。フィルムも高いが現像も高い。しかし、出来上がるのをワクワクしながら待つこの感じは懐かしい。いい写真が撮れているか。というか、そもそも撮れているのか。夕方から副業。

 

5月3日

実家に顔を出す。新潟から取り寄せたへぎ蕎麦をお裾分けで持っていったら、同じものを実家でも買っていて10倍にして返された。父の入れたコーヒーを飲みながら親戚の近況などを聞き、夜勤へ。一晩で映画1本、小説1冊を読めるほどヒマであった。同僚に、「家にいる時とすること変わらないですね」と言われ、確かにそうだなと思った。

 

5月4日

事務所に入ったばかりの頃にお世話になっていた人のお見舞いに、おっさん4人で行ってきた。病気と向かい合った時にその人の弱さ強さ含め本当の姿が見えるというのはよく聞く話であるが、ここまで強く向き合った人を私は知らない。


大先輩であるが、ずっと「こばちゃん」と呼んでいた。20年前、六本木morphの事務所にはいろんな人が出入りしていた。よく見るけどこのおじさんは誰なんだろう?そういう人がたくさんいた。ギョーカイの偉そうな人や、怪しい人、リリー・フランキーさんなんかもいた。こばちゃんはそんな中の一人であった。会長の福田さんの友達の大学の教授と紹介された気がするが、実際のところどういう人なのかあまり理解してはいなかった。すごい人というのはうっすらわかってはいたが、若造のぼくにとっては「仲良くしてくれるやさしいおじさん」であった。よくウラニーノのライブを見てくれて、応援してくれて、福田さんとよく飲みに連れていってくれた。こばちゃんが論文を書き上げて博士号か何かを取った記念のイベント(違ったらすみません)に、ゲストとして出させてもらってライブをしたこともあった。「人様に捧げる歌」と「カメ」はぼくの人生のテーマ曲なんだよと、よく言ってくれた。

1年ほど前、こばちゃんが闘病中と聞いた。morphの店長だったアベちゃんが教えてくれて、久しぶりにFacebookを開いてみた。そこにはこばちゃんが相変わらず飄々と淡々と日々のこと世の中のことを書き綴っていた。定期的に送ってもらう病状報告は、病気と向き合う自分の心と身体を客観的に記録し、ドライに、そして時にシニカルに文章に綴っていた。強い人だなと思った。

3月頃、久しぶりに連絡をしてみた。調子がよさそうな日があれば会いに行きたいですと。そのあと入院してしまったので、今回アベちゃんに声をかけてもらって、morphにいた「財団」(この「ザイダン」がどういった団体なのか未だに私は理解していない)の佐藤さん、そしてピストンと私というおっさん4人でお見舞いに行ったのである。

こばちゃんはだいぶ痩せて仙人のような風貌になっていた。しかし相変わらずこばちゃんであった。六本木に出てきた埼玉の田舎者の若造をやさしく見守ってくれていた当時と同じ目をしたこばちゃんであった。アベちゃんは「おれもそのうち行くから地獄で待っててね!」と言った。みんな笑っていたがピストンはちょっと泣いていた。こばちゃんは握手をした手をしっかりと握り返してくれた。「またね、こばちゃん」と言って我々は病室を去った。

帰り道、アベちゃんと「ザイダン」の佐藤さんは、昨日の飲み会で誰がいくら払ったかというこの世で最も不毛な議論を楽しそうにしていた。ぼくはできれば天国に行きたいけど、こんな楽しい人たちがいるなら地獄も悪くないのかなと少し思った。(佐藤さんまで地獄に行くことになってるけど)

こばちゃんが心安らかに過ごせますように。帰ってからいつもよりたくさん飲んで眠った。

 

5月5日

ランクヘッドのライブを観に渋谷へ。25周年。現役バリバリで走り続けている同世代のライブは胸が熱くなる。とてもいいライブだった。急に職場の後輩が誘ってくれて、渋谷まで来てくれたので焼き鳥屋で飲んで帰った。