「音楽はあるか」発売に寄せて
前作「World end Happy end」を発売してから、3年半が経ちました。
「CDはまだ出ないんですか?」、ライブ会場で何百回聞かれたことでしょう。待ってもらえている喜びと、待たせている申し訳なさと悔しさを噛み締めながら、「がんばっています」と曖昧に言葉を濁してきましたが、ようやく3年半分の想いをこうして形にすることができました。
「大人の事情」という誰が考え出したのか便利で無責任な言葉で、CDが出せない言い訳をしてきましたが、要は求められる曲ができなかったぼくの力不足です。「もっと明るい曲」、「わかりやすい曲」、「ポップでキャッチーな」、「タイアップ取れるように」。そんな歌を必死で探していました。自分らしさを出せば大衆向きでないと言われ、自分を捨てて作れば「お前らしくない」とはね返される。書けども書けどもボツになり、見えない的にひたすら矢を射るような、そんなむなしくもどかしい日々が続きました。
そんな中、2011年3月11日、あの大きな地震が起こりました。計画停電で薄暗くなった部屋の中でぽつんと一人ギターを抱え、ラジオから聞こえる情報に悲しみと絶望を感じながら、「明るくてわかりやすくてポップでキャッチーなタイアップとれる曲」なんてものに、一体なんの意味があるのだろうと思いました。そんな薄っぺらいものを狙って作ろうとしている自分が、とてもちっぽけに思えました。そんなことよりも、今向き合っているこの現実に対して、はたして音楽はあるのか?
ようやく発売が見えた頃、12年連れ添ったオリジナルメンバー、ピストン大橋の脱退が決まりました。新たな気持ちでレコーディングの最終セッションに入ろうとした時、「この作品が最後になるかもしれない」と、プロデューサー佐久間さんから癌であることを告げられました。
「いろんなことを乗り越えて進まなければならない。ぼくらは、音楽はあると信じてしまっているのだから」。レコーディング最終セッション、ぼくの隣で「音楽はあるか」のギターソロを弾いている佐久間さんを見ながら、そんなことを思いました。
バンドは生き物です。積み重ねたもので曲も出す音も変わっていきます。この先どれほどの歴史を刻んでいけるかわかりませんが、今ここで鳴っているものは、この3年半を越えたぼくらにしか出せない、今のウラニーノの音です。
一人でも多くの人に届きますように。そして手術の3日前まで一緒に作業をしてこの作品を作り上げてくれた佐久間正英さんが、一日も早く元気になられますように。
ウラニーノ 山岸賢介 2013年8月29日
【アルバム「音楽はあるか」ブックレットより転載】
「 音楽はあるか 」発売まで・・・あと1日。