謎のおじさんの話

私は東京郊外のマンションに住んでいるのですが、あれは確か昨年の春のことでございました。駐車場で野良猫にごはんをくれてやりながら手なずけていたら、犬の散歩をしている初老の男性と会いました。「寒いですね」などとご近所さん同士の他愛もない世間話が始まったのですが、なんだか話していると音楽業界の人らしいことがわかってきました。しかも「最近はあんまり出社していないけど明日は虎ノ門で役員会」などと、なんだか内容にどんどん大物感が出てきまして。しかし、失礼ですが風態にそんな雰囲気が全くなく、よく言えば慎ましい、悪く言えば貧乏くさい(失礼)。徘徊老人と言われてもおかしくない雰囲気でございます(ますます失礼)。「自分もバンドやってます。エピックです」と話すと話が弾みましてね。こういう時だけエピックの名前出すとこが自分でも情けないんですが。「最近はCDが本当に売れないねぇ。こないだ出したaikoがまぁ売れたかな」などとぶつぶつおっしゃっていましたが、最後は「演歌サイコー」的な結論になり別れました。

別れた後で考えましたね。態度もエラそーな感じがなく物腰の低い方ですし、本当にあの方は業界の大物なのだろうかと。気になったのでちょいと調べたらすぐわかりました。aikoさんがいて本社が虎ノ門といえば、天下のポニーキャニオンでございます。私が自宅マンションの駐車場でネコ集めをしながら世間話をした人は、ポニーキャニオンの重鎮だったのでしょうか。その後ちょいちょいお会いしますが、あのおじさんが何者かは謎のままです。

バンドマンよ、近所を散歩するにも常にサンプル音源を持ち歩け。どこに誰がいるかわからんぞ。